委託ドライバーの労働者性と偽装請負

委託ドライバーが労働者かどうかを決めるのは、契約書のタイトルではなく、日々の働き方です。契約書は、実態を事業者の側に寄せるための道具です。

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安全のために求める点呼やアルコールチェックも、書き方しだいで指揮監督の証拠になります。

このページの要点

  • 労働者性は、諾否の自由・指揮監督・拘束性・報酬の性質・機材の負担などを総合して判断される(労働基準法9条)。
  • 始業・終業時刻や休日を本文に固定せず、受託の判断・経路・方法の裁量を受託者に残す。
  • 点呼・アルコールチェックは受託者自身の法令上の義務として実施させ、結果の報告を受ける形にする。
  • 協力会社のドライバーに委託側が直接指示すると、偽装請負・労働者供給の問題になる。

結論:「業務委託契約書」と書いても、実態で判断される

委託ドライバーが労働基準法上の「労働者」かどうかは、契約書に何と題を付けたかでは決まらず、実際にどう働いているかで判断されます。労働基準法9条は、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使われて賃金を受け取る者を「労働者」としており、その当てはめは個別の事情を総合して行われます。元請の標準契約書をレビューした報告書の結論も、「契約書の設計は労働者性を否定する方向に整っているが、労働者性は文言でなく実態で判断される」というものでした。契約書でできるのは、実態を独立した事業者の側に寄せる条項を置くことと、実態と食い違う条項を置かないことまでです。

その標準契約書には、事業者性と雇用でないことを書いた条の最後に、「実際の業務遂行状況に照らして法令上別の取扱いが必要となる場合は、甲乙は関係法令に従う」という一文が置かれていました。契約書の文言が実態の判断を縛らないことを、当事者自身が確認しておく条です。

判断の物差し

事務所の報告書は、労働者性を次の要素で整理しています。

労働者性の判断で見られる要素と、軽貨物での現れ方
要素軽貨物の委託で問題になる場面
仕事の依頼への諾否の自由配車を断れるか。断ると不利益があるか
業務遂行上の指揮監督運送先・時刻など業務の性質上当然の指示を超えて、経路・順序・休憩まで細かく指示していないか
時間的・場所的拘束、代替性始業・終業時刻の固定、待機場所の指定、本人以外の稼働を認めるか
報酬の性質配送個数・件数に応じた報酬か、時間に応じた固定給か
事業者性(補強要素)車両・端末を自分で負担しているか、損益を自分で負うか
専属性(補強要素)他社の仕事を禁じられているか

判例として、トラック持込み運転手についての最高裁判所の判決があります。自己所有のトラックを持ち込んで運送業務に従事していた運転手について、トラックを所有し自己の危険と計算で業務に従事していたこと、会社の指示は運送物品・運送先・納入時刻という運送業務の性質上当然必要なものに限られていたこと、時間的・場所的拘束も一般の従業員よりはるかに緩やかだったこと、報酬の支払方法や公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除がなく、事業所得として確定申告していたこと)などを総合して、労働基準法上の労働者に当たらないとした事例です(最高裁平成8年11月28日第一小法廷判決、集民180号857頁)。この判決は、専属的に運送業務に携わり運送係の指示を拒否する自由がなかったことなどを考慮しても労働者に当たらないとした、個別の事案の総合判断です。「業務委託契約にしておけば労働者にならない」と読める判決ではありません。

もう一つ、作業場を持たず一人で工務店の仕事をしていた大工について、工法・作業手順の選択、就業時間・休みの自由、他社の仕事の可否、出来高払いの報酬、道具の自己所有、社会保険等の扱いなどの実態を総合して、労働者に当たらないとした事例もあります(最高裁平成19年6月28日第一小法廷判決、集民224号701頁)。どちらも一つの要素で決まったのではなく、要素を積み重ねた判断です。

トラック持込み運転手の判決が挙げた事情を、軽貨物の業務委託契約書の条に置き換えてみると、契約書でどこを手当てできるのかが見えてきます。もちろん、条文があるだけで同じ結論になるわけではなく、運用が条文どおりであることが前提です。

判決が挙げた事情と、契約書・運用での対応
判決が挙げた事情契約書での対応の例運用で気をつけること
機材を所有し、自己の危険と計算で従事持込み車両とし、車両の維持費・燃料費・公租公課は受託者負担と書く委託側が車両・端末を無償で貸し続けない
指示は運送物品・運送先・納入時刻に限られる指示は業務の適正な遂行に必要な指示・確認に限る、経路・方法は受託者の裁量と書く配送の順序や休憩の取り方まで指示しない
時間的・場所的拘束が緩やか稼働日・時間帯は個別条件で都度定め、受託するかは受託者が判断すると書くシフトの提出を事実上強制しない
源泉徴収・社会保険料の控除がなく、事業所得として申告報酬は請求書に基づき支払い、公租公課は受託者負担と書く給与のような計算や控除をしない

判決は個別の事案の総合判断です。表は、契約書と運用を点検するための整理として示しています。

判決は、専属的に運送業務に携わっていたことや、運送係の指示を拒否する自由がなかったこと、報酬がトラック協会の定める運賃表による運送料より1割5分低い額とされていたことも考慮したうえで、なお労働者に当たらないとしています。逆に言えば、これらの事情は労働者性の方向に働き得る要素として検討された、ということです。専属性を強める条や、配車を断れない運用は、できるだけ避けておくのが安全です。

契約書でできること:寄せる条項と、置かない条項

レビューした標準契約書で「良好」とした要素と、「要確認」とした要素を並べると、契約書でできることの範囲が見えてきます。

標準契約書のレビューでの評価

良好とした要素要確認とした要素

関係の性質

良好とした要素雇用契約でないこと、労働契約・代理・組合の関係を生じないことの明記

要確認とした要素―

指示

良好とした要素指示は業務の適正な遂行に必要な指示・確認に限る

要確認とした要素稼働日・場所・時間を個別条件で都度定める仕組み。指定の密度が上がると拘束性が強まる

報酬

良好とした要素業務実績払いで、時間単位の固定給ではない

要確認とした要素―

費用

良好とした要素車両の維持費・燃料費、公租公課は受託者負担

要確認とした要素―

代替

良好とした要素―

要確認とした要素欠員時の代替要員の使用に委託者の事前承認が要る。自由な代替とは逆向きの制約

「要確認」は契約書の欠陥という意味ではなく、運用しだいで労働者性の方向に働き得る点という意味です。

運送会社の個人ドライバー向け基本契約を作成した案件では、受託するかどうかは受託者が自己の判断で決める、運送経路・方法は法令と配送条件の範囲で受託者の裁量、競業避止は「委託者から受けた業務の遂行に支障を及ぼす態様」に限り、他の運送業務を営むこと自体は制限しない、と書きました。法人間の外注では、1日あたりの配送個数は目安で保証ではないこと、完了時刻は守るが業務の順序・経路・方法は受託者の裁量で決めること、制服・配送端末の貸与はなく制服の着用義務もないこと、研修期間を設けず業務開始当初から同じ個建単価とすること、待機料・各種手当は支給しないことを明記しました。報酬を時間ではなく配送個数に結びつけ、受託会社が自分の手段で業務を遂行することを書面に残す作りです。

事務所の改訂例 協力会社向け業務委託契約の指揮命令の書き方

業務の詳細の決め方

出発点始業・終業時刻、休憩、休日を契約書に書き込む形。(当初の案)
改訂後業務指示書・配車表で個別に定める形にし、「甲は乙に対して直接の指揮命令を行わない」と明記しました。所属ドライバーに委託者の基準・マニュアルを守らせることは、受託会社の指導・監督義務として構成しました。

委託者が受託会社の先のドライバーを直接管理する形を避けるためです。

点呼・アルコールチェックの書き方

安全管理(点呼・アルコールチェック)は、委託側としては必ず求めたい事項です。しかし書き方しだいで、指揮監督の証拠にもなります。法人間の外注の契約を作った案件では、依頼者のヒヤリング回答は「点呼・アルコールチェック・日報の提出を求めたい」というものでした。事務所は、これを委託側の管理としてではなく、受託会社が「貨物軽自動車運送事業を営む者として」自ら実施し、結果を委託側の求めに応じて報告する形で条文にしました。

条文例業務委託契約 第◯条(安全管理)

  1. 乙は、貨物軽自動車運送事業を営む者として、ドライバーに対し、業務開始前及び終了後の点呼、アルコールチェックその他法令が定める安全管理を自らの責任で実施し、その記録を作成し保存します。
  2. 乙は、甲の求めがあるときは、前項の実施の状況を甲に報告します。
  3. 前二項の点呼、アルコールチェック及び日報は乙自身の義務として行うものであり、甲がドライバーに指揮命令し、使用従属関係を生じさせるものではありません。

法人間の配送外注の契約で作成した条文を、趣旨を変えずに整理したものです。

レビューした標準契約書では、受託者が各業務従事者について始業前点検・アルコール確認・体調確認・免許の有効性確認を行い、法令上必要な場合は記録を作成・保存し、委託者の安全指導は受託者が業務従事者に伝達する、という形をとっていました。報告書はこの条について、改善基準告示は労働者を対象とする告示でこの条に直接適用されるものではないが、安全配慮の観点から妥当と評価しています。あわせて、急病・負傷などで稼働できないときも、委託者は確認に必要な最小限の情報だけを求め、安全な運行ができない者に稼働を求めない、と書いた条も評価しました。体調や私生活への過度な介入を避ける書き方です。

委託側が安全管理の状況を知りたいときに、どこまで求めてよいかの目安は、「結果の報告を受ける」と「やり方を指図する」の違いです。点呼やアルコールチェックを実施した記録の提出、事故や違反の報告、免許や保険の状況の確認は、受託者が自分の義務を果たしているかを確かめるための報告として求められます。一方、点呼の時刻や場所を委託側が指定して自ら立ち会う、検査の結果を見て委託側がその日の稼働の可否を個々のドライバーに直接告げる、といった運用は、委託側がドライバーを直接管理している形に近づきます。必要な報告の範囲を契約書に書いておくと、運用がそれ以上に広がりにくくなります。

相手が会社なら、偽装請負に気をつける

相手が協力会社(法人)の場合、労働者性は原則として問題になりにくくなります(代表者だけの一人法人で実態が個人と変わらない場合は別です)。代わりに問題になるのが、委託側が会社の先にいるドライバーへ日々の業務の進め方を直接細かく指示することです。法人間の外注のご説明資料では、こうした運用は「形は外注でも実態は労働力の提供」と評価され、職業安定法・労働者派遣法上の労働者供給・偽装請負の問題になると説明しました。運用のコツとして挙げたのは次の2点です。

  1. 日々の指示は受託会社に対して行い、個々のドライバーには「時間までに配送する」という結果を求めるにとどめる。
  2. 点呼・アルコールチェックは受託会社が自社のドライバーに対して負う義務なので、委託側が肩代わりせず、受託会社に実施させ報告を受ける。

協力会社を使うときの指示と報告の流れ

  1. 委託側業務の完成と品質の確保に必要な範囲で、受託会社に連絡・要請します。配送の結果(時刻・件数・品質)を求め、個々のドライバーには直接指示しません。
  2. 受託会社(業務責任者)ドライバーの選任・労務管理・指揮命令を自らの責任で行い、点呼・アルコールチェックを実施して記録します。委託側の基準やマニュアルは、受託会社がドライバーに伝えて守らせます。
  3. ドライバー受託会社の指示に従って配送し、結果を受託会社に報告します。事故や異常は受託会社を通じて委託側に伝わります。

委託側が受託会社を飛ばしてドライバーに直接指示する流れが日常化すると、偽装請負と評価されやすくなります。

条文でも、受託会社が自己の責任と裁量でドライバーと車両を確保し、ドライバーの選任・労務管理・指揮命令・社会保険・労働保険・租税公課を受託会社の責任と負担で行い、委託側はドライバーに直接指揮命令しない、委託側は業務の完成と品質確保に必要な範囲で受託会社に連絡・要請できる、と書きました。

労働者と判断されたら、他の条項も使えなくなる

労働者と判断されると、残業代・社会保険・解雇の規制が及ぶだけではありません。業務委託を前提にした違約金や天引きの条項が、労働法の規定とぶつかります。労働基準法16条により、使用者は、労働者が約束どおり働かなかったときの違約金や賠償の額を前もって決めておくことができません。また同法24条1項により、賃金は全額を支払うのが原則で、差し引けるのは法令に定めがある場合や労使協定がある場合などに限られます。代走費の定額負担金(代走・違約金)や、リース料の報酬からの控除(天引き・相殺・前払金)は、相手が独立した事業者であることを前提にした仕組みです。労働者性の手当ては、契約書全体の土台にあたります。

研修・制服・端末:事業者性を薄くしない工夫

労働者性の判断では、報酬が仕事の成果に対応しているか、機材を自分で負担しているかも見られます。契約書の本文だけでなく、研修の扱い、制服・端末・車両の貸与の扱いが、この判断に影響します。

研修と貸与物の扱いの比較

法人間の外注で作成した形個人ドライバー向けで作成した形

研修

法人間の外注で作成した形研修期間は設けず、業務開始当初から同じ個建単価

個人ドライバー向けで作成した形事前研修(業務遂行能力の確認・安全指導・システムの基礎教育)を契約の一環として行い、1日以上受講したら1日あたりの上限額付きの研修報酬を払う。全課程を修了せず自己都合で受託の意思を撤回したら研修報酬を払わない

手当

法人間の外注で作成した形待機料・キャンセル料・長距離手当・繁忙期手当・深夜手当などは支給しない

個人ドライバー向けで作成した形―

制服・端末

法人間の外注で作成した形制服・配送端末の貸与はなく、制服の着用義務もない。端末は自己又は受託会社が用意し、通信費などは受託会社の負担

個人ドライバー向けで作成した形委託者が指定する業務システムの使用料を報酬に含め、別途の請求・控除をしない

個人ドライバー向けの研修報酬は、依頼者が実際に行っている研修の運用に合わせて定めたものです。

一般に、稼働前の研修を日当の形で払う設計を採る場合は、報酬が時間の拘束に対応しているという方向の事情として説明を求められる可能性があるため、研修を置くなら、内容を業務遂行能力の確認・安全指導・システムの使い方に限り、受講するかどうかと受託するかどうかを受託者が判断できる形にしておくのが無難です。一方、法人間の外注のように研修を置かず、業務開始当初から配送個数に応じた単価にする形は、報酬と時間を切り離すという点ではっきりしています。

委託側が車両・端末・制服を無償で貸し続けることも、ドライバーの事業者性を薄く見せる要素になり得ます。会社が車を貸すなら、リース料を定める車両の契約を別に結ぶのが事務所の作成例の形です(車両リースの契約)。他社の仕事を禁止する専属の条も同じ方向に働くため、競業の制限は「受託した業務に支障を及ぼす態様」に絞る書き方を選んでいます(競業避止の書き方)。

契約書の建付けと、実務の運用ルールの差

軽貨物の会社が元請から示された書類一式を確認した案件では、元請の契約書の冒頭の条が、受託側とそのドライバーは元請の従業員ではない、車両・人員配置・勤務時間は受託側の判断で行う、元請は業務の結果のみを確認する、と定めていました。しかし実務の上では、配送コースの指定、稼働予定の提出、配送品質の基準、想定配達数量など、元請の運用ルールに従う場面が多く、品質の基準に違反した場合の業務停止・再教育・ドライバー交代の措置も運用ルールとして受託側に及ぶ構造でした。事務所は「契約上は業務委託であっても、実際の業務運用では一定程度のルールや指示が存在する形になる」と説明しました(元請の書類の読み方)。

この差は、元請と受託会社の関係だけでなく、受託会社とその先の個人ドライバーの関係にも影響します。元請の運用ルールをそのまま個人ドライバーに流すと、受託会社が個人ドライバーに細かな指示をしている形になりやすいからです。受託会社の側では、元請のルールのうち「結果として求められる水準」と「進め方の指示」を分け、個人ドライバーには前者を伝える、という整理が必要になります。

ヒヤリングで確かめること 労働者性の観点から運用を点検する問い

  1. ドライバーは、提示された配車を断れますか。断ったときに不利益な扱いをしていませんか。

    諾否の自由は判断の出発点です。受託するかどうかを受託者が決めると書くだけでなく、運用も合わせます。

  2. 配送の順序・経路・休憩の取り方まで指示していませんか。

    運送先・時刻など業務の性質上当然の指示を超えると、指揮監督の要素が強まります。

  3. 本人が稼働できない日に、資格を確認したうえで代わりの人を手配できますか。

    代替を事実上認めない運用は、労働者性の方向に働きます。

  4. 報酬は配送個数・件数に応じていますか。時間に応じた固定給になっていませんか。

    報酬の性質は重要な判断要素です。

  5. 車両・燃料・端末の費用は、誰が負担していますか。

    機材の自己負担は事業者性を示す要素です。

  6. 他社の仕事を受けることを禁じていませんか。

    専属性は補強的な要素として見られます。

よくあるご質問

「業務委託契約書」と書いてあれば、労働者にはなりませんか?

なりません。労働者性は契約の名称ではなく、指揮監督の有無、時間的・場所的拘束、報酬の性質、機材の負担などの実態を総合して判断されます(労働基準法9条)。契約書は、実態を事業者の側に寄せ、実態と食い違う条項を置かないための道具です。

点呼やアルコールチェックを委託ドライバーに求めると、労働者性が強まりますか?

書き方しだいです。法令遵守と安全確保のための受託者自身の義務として書き、結果の報告を受ける形にすれば、委託側の指揮命令とは区別できます。委託側が個々のドライバーを直接管理する形は避けます。

代走を事前承認制にしてもよいですか?

免許・保険・安全指導を確認するための承認には合理性があります。ただ、代替を事実上認めない運用が続くと労働者性の方向に働くため、承認の基準を資格・安全の確認に限る書き方が無難です。

協力会社(法人)なら、気にしなくてよいですか?

労働者性は原則として問題になりにくいものの、協力会社のドライバーに委託側が直接シフトや指示を出すと、偽装請負・労働者供給の問題になります。指示は受託会社に対して行い、ドライバーには結果を求めるにとどめます。

労働者と判断されたら、何が困りますか?

残業代や社会保険、解雇の規制が及ぶほか、違約金・賠償額の予定の禁止(労働基準法16条)や賃金の全額払い(同法24条)により、業務委託を前提に置いた違約金・天引きの条項が使えなくなる可能性があります。

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