このページの要点
- 事業譲渡と株式・持分の譲渡では、許可の扱いも債務の引継ぎも異なる。契約書の対象を先に特定する。
- 一般貨物自動車運送事業の譲渡し・譲受けは、国土交通大臣の認可を受けなければ効力を生じない(貨物自動車運送事業法30条1項)。
- 車両(名義・所有権留保・リース)、営業所・車庫、荷主との契約上の地位を、一つずつ別紙で特定する。
- 代金の長期分割では、期限の利益の喪失事由と担保を決める。譲渡後の競業と旧顧客の扱いも書く。
結論:運送会社を「ごと」売るときは、まず売るものが事業か株式(持分)かを決めます
運送会社の譲渡で最初につまずくのは、「会社ごと売る」「法人格を譲る」という言い方で話が進み、契約書の対象が決まっていないことです。実際には、事業を譲渡する場合(事業の全部または一部を、車両、契約、営業所とともに別の会社へ移す)と、株式や持分を譲渡する場合(会社そのものは同じで、経営者・出資者が替わる)とでは、運送業の許可の扱いも、契約書に書くべきことも大きく変わります。
一般貨物自動車運送事業の許可は、事業の譲渡し及び譲受けについて国土交通大臣の認可を受けなければ、効力を生じません(貨物自動車運送事業法30条1項)。認可が出るまでの間、車両、営業所、荷主との契約をどう扱い、代金をどう払い、認可が下りなかったときにどう戻すかを契約書に書いていないと、売り手も買い手も動けなくなります。
- 譲渡する対象を、事業(資産・契約の移転)か、株式・持分(出資者の変更)かで先に決める。許可の扱いも契約書の中身も変わる。
- 一般貨物の事業の譲渡し・譲受けは、国土交通大臣の認可を受けなければ効力を生じない。契約は認可を条件とし、認可前の引渡し・運行を止める。
- 軽貨物の事業では、譲渡人が事業の全部の譲渡を届け出て、譲受人は自ら届出をする。届出の内容と車両の名義の整合を取る。
- 譲渡する財産は、車両(名義・所有権留保・リース)、営業所・車庫の賃貸借、荷主との契約上の地位などを一つずつ特定する。
- 代金を長期の分割にするときは、期限の利益の喪失と担保を決める。譲渡後の競業と旧顧客の取扱いも書く。
このページは、契約書の側の論点に絞ります。許可や届出の手続そのものではなく、手続と契約がかみ合うように、何をどの順序で書くかを整理します。軽貨物の届出の全体像は貨物軽自動車運送事業の届出、委託契約の地位の譲渡条項は契約終了・競業で扱っています。
「会社ごと売る」の三つの形:事業譲渡・株式譲渡・持分譲渡
「法人格を譲渡する」という言い方は、法律用語としては正確ではありません。法人格は譲渡の対象になるものではなく、実際に動くのは、事業か、株式(株式会社)か、持分(合同会社などの持分会社)のいずれかです。
譲渡の形を比べる
何が移るか
事業譲渡事業に属する車両、営業所の使用権、荷主との契約上の地位、従業員、債権などを、個別に(または包括的に)移す。
株式・持分の譲渡会社そのものは変わらず、会社を所有・支配する者(株主・社員)が替わる。
許可の扱い
事業譲渡一般貨物は、事業の譲渡し・譲受けの認可を受けなければ効力を生じない(30条1項)。認可を受けて譲り受けた者は、許可に基づく権利義務を承継する(30条4項)。
株式・持分の譲渡条文が認可の対象とするのは事業の譲渡し・譲受け、合併、分割で、株式・持分の譲渡は挙げられていない。会社の許可はそのまま残る。
会社法上の手続
事業譲渡株式会社が事業の全部または重要な一部を譲渡するときは、効力発生日の前日までに株主総会の決議が必要(会社法467条)。反対株主に株式買取請求権がある(同法469条)。
株式・持分の譲渡株式は原則として自由に譲渡できる(同法127条)。譲渡制限株式は会社の承認が必要(同法136条・139条)。合同会社の持分は、他の社員全員の承諾が原則(同法585条1項)。
債務・責任
事業譲渡引き継ぐ債務を契約で選べる。ただし、譲受会社が譲渡会社の商号を続けて使うと、譲渡会社の事業上の債務を弁済する責任を負うことがある(会社法22条1項)。
株式・持分の譲渡会社が負う債務・責任は、そのまま残る。契約の保証や表明で、過去の債務や処分歴を扱う。
向く場面
事業譲渡事業の一部だけを譲る、赤字部門を切り離す、買い手に引き継ぐ債務を限りたいとき。
株式・持分の譲渡許可・車両・従業員・取引先をそのまま引き継ぎたいとき。
どちらの形でも、売り手の側の役員や買い手の側の役員が、許可の欠格事由(貨物自動車運送事業法5条)に当たらないことを確かめる必要があります。
株式や持分の譲渡では、許可の主体である会社は変わらないため、30条の認可は問題になりません。ただし、許可を受けた法人の役員のなかに、貨物自動車運送事業法5条の欠格事由(一年以上の拘禁刑の執行後5年が経過しない者、許可の取消しを受けて5年が経過しない者など)に該当する者がいる場合、あるいはそのような事由に該当するに至った場合は、許可の取消し等の対象になり得ます(同法5条8号、33条2号)。買い手になる側の経営者の経歴が、譲渡後に会社の許可へ跳ね返る点は、株式・持分の譲渡で見落とされやすい論点です。
契約書の側では、次の点を最初に特定します。「甲は乙に、◯◯株式会社の発行済株式の全部を譲渡する」とするのか、「甲は乙に、甲が営む貨物自動車運送事業を譲渡する」とするのかで、続く条(譲渡対象、引渡し、許可、債務の扱い)がまったく別の設計になります。譲渡する形を決める際は、許可の維持、債務の切り分け、従業員の引継ぎ、買い手の資金計画を並べて、どれを優先するかを検討します。
一般貨物の事業譲渡:認可が効力要件であることを前提に組む
貨物自動車運送事業法30条は、一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受けについて、次のことを定めています。国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力を生じないこと(1項)。譲受人について、許可の基準(同法6条)と欠格事由(同法5条)の規定が認可に準用されること(3項)。認可を受けて事業を譲り受けた者は、許可に基づく権利義務を承継すること(4項)。合併と分割も、一般貨物自動車運送事業者たる法人が一般貨物自動車運送事業を承継させる場合は認可の対象です(2項)。
契約書にとっての意味は明確です。譲渡契約を結んだ時点では、まだ事業の譲渡し・譲受けの効力が生じていません。認可が下りるまで、譲受人は譲渡人の許可で事業を営むことはできません。そこで、契約書は認可を停止条件とし、認可の前に何をしてよく、何をしてはいけないかを書き分けます。
事業譲渡契約から引渡しまでの流れの例
- 基本合意・調査譲渡の範囲、代金の目安、秘密保持を決め、車両、契約、許可の状況、処分歴を確認する。
- 譲渡契約の締結認可を停止条件とすること、認可の申請の分担、認可を得られる最終期日を書く。株式会社なら株主総会の承認の手続も組み込む。
- 認可の申請・取得申請の分担を契約で決める。譲受人は許可の基準(事業計画、車庫、経済的基礎)を満たす必要がある。
- クロージング(引渡し)認可後に、車両の名義変更、営業所・車庫の賃貸借の切替え、荷主との契約の承継、代金の支払を同時に行う。
- 引渡し後の届出・通知荷主、保険会社、リース会社、取引先への通知と、営業所の看板・車両表示などの切替えを行う。
条文例事業譲渡契約 第◯条(認可)の書き方の例(一般的な例)
- 甲及び乙は、本契約に基づく本事業の譲渡し及び譲受けが、貨物自動車運送事業法30条1項に定める国土交通大臣の認可を受けなければその効力を生じないことを確認する。
- 甲及び乙は、本契約の締結後、速やかに認可の申請を行い、相互に必要な書類及び情報を提供して協力する。
- 本契約に基づく本事業の移転は、前項の認可があった日(以下「効力発生日」という。)に効力を生じる。甲は、効力発生日までの間、甲の責任と名義で本事業を継続し、乙は、効力発生日までの間、本事業を自己の名義で営んではならない。
- 認可が令和◯年◯月◯日までに得られないとき、または認可がされないことが確定したときは、甲及び乙は、本契約を解除できる。この場合、乙が甲に支払った金銭は、遅滞なく返還する。
第3項の「自己の名義で営んではならない」は、認可前に譲受人が運行を始めてしまうことを防ぐための書き方です。
認可の前に「実質的には買い手が運営を始める」状態を作ってしまう例が、現場では起こりやすい注意点です。たとえば、認可前に買い手の名義で荷主と契約を結ぶ、買い手の運転者が譲渡人の車両で運行する、買い手が営業所を使い始める、といった動きです。契約書では、認可の前後で運営の主体が切り替わる日を1つに決め、その日までの運行・事故・未払いの責任は譲渡人が負う、と書いておきます。
合わせて、認可の最終期日と、認可が得られなかったときの原状回復も決めておきます。認可を条件とした契約が不成立になったとき、すでに支払われた手付金や引き渡された書類をどう戻すか、準備にかかった費用をどちらが持つかを、契約書に書きます。
軽貨物の事業の場合
貨物軽自動車運送事業は許可ではなく届出の事業で、事業を廃止し、事業の全部を譲渡し、または分割により事業の全部を承継させたときは、遅滞なく届け出なければなりません(貨物自動車運送事業法36条3項)。譲り受けた側は、自ら貨物軽自動車運送事業を経営しようとする者として、営業所の名称及び位置、事業用自動車の概要などを届け出る必要があります(同条1項)。軽貨物の場合、一般貨物のような認可は条文上置かれていませんが、契約書の書き方(誰がいつ届出をするのか、届出事項と車両の名義が一致しているのか)は同じように重要です。
譲渡財産を一つずつ特定する:車両、営業所・車庫、荷主との契約
事業譲渡の契約書は、譲渡する資産と契約を「一切の」と包括的に書くより、一つずつ特定して別紙に挙げるほうが安全です。運送業では、特に次の四つを個別に確認します。
| 財産 | 確認すること | 契約書での書き方 |
|---|---|---|
| 車両 | 車検証上の所有者・使用者、所有権留保やリース会社の名義、ローンの残高、事業用ナンバー | 車両ごとに別紙で特定し、名義変更の期限と費用負担、完済や承諾が必要なものの処理を決める |
| リース契約 | リース会社の承諾の要否、残リース料の扱い、中途解約の条件 | 契約上の地位の移転にはリース会社の承諾が必要なため、承諾を条件にするか、譲渡対象から外すかを決める |
| 営業所・車庫 | 賃貸借契約の貸主の承諾、使用目的と期間、許可の事業計画に記載した場所との整合 | 賃貸借の承継または新規契約の時期を、認可・代金の支払と合わせる |
| 荷主との契約 | 契約上の地位の移転に荷主の承諾が必要か、取引条件が変わらないか、荷主ごとの専属・優先の約束 | 荷主ごとに承諾書を取る手順と、承諾が得られなかった契約の扱い(譲渡対象から外す、代金調整)を決める |
契約上の地位の移転には、原則として相手方の承諾が必要です(民法539条の2)。
登録自動車(普通車・小型車など)の所有者が変わったときは、新所有者がその事由があった日から15日以内に移転登録を申請しなければなりません(道路運送車両法13条1項)。譲渡の日と名義変更の日がずれると、事故が起きたときに車検証上の使用者と実際の運行者が食い違い、責任の所在が不明確になります。譲渡日以降の運行の責任を買い手が負う、名義変更が完了するまでは保険の契約者・被保険者の扱いを決める、といった点も書いておきます。
車両の売買や、ドライバーへの貸与がすでに組み込まれている場合は、譲渡対象に含める車両の範囲を、リースや所有権留保の有無とあわせて確認します(車両リース契約書)。営業所や車庫の賃貸借を引き継ぐ場面では、貸主の承諾と、駐車場の使用目的が運送業の車両に対応しているかを確認します(駐車場・キッチンカーの賃貸借)。
荷主との契約では、売り手と荷主の間の基本契約が「契約上の地位の譲渡には事前の承諾を要する」と定めていることが多く、承諾なしに移転すると契約違反になります。譲渡契約の中で、荷主の承諾を得る手順(だれが、いつまでに、どの書式で取るか)と、承諾が得られなかったときの扱い(その荷主の売上を代金から除く、移転を保留する、など)を決めておくと、クロージング直前の混乱を避けられます。
人の引継ぎについては、契約書では「だれがだれに何をする」という範囲にとどめます。雇用契約の中身は個別の合意事項であり、使用者の権利の譲渡には労働者の承諾が必要です(民法625条1項)。譲渡契約では、従業員の引継ぎの意思確認を譲渡の条件とするか、引継ぎ後の取扱いは買い手が定めることにするか、といった点を書くにとどめます。委託ドライバーとの業務委託契約は、荷主との契約と同じく契約上の地位の移転の問題として整理します(軽貨物の業務委託契約書)。
最後に、債務の扱いです。事業譲渡では、引き継ぐ債務を契約で選べます。ただし、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うことがあります(会社法22条1項)。例外として、譲受後に遅滞なく、債務を弁済する責任を負わない旨を本店所在地で登記するか、譲受会社と譲渡会社から第三者に通知した場合は、責任を免れます(同条2項)。屋号や車両の表示を変えないまま事業を続けるときは、この点に注意します。
譲渡代金の長期分割払いと、担保・期限の利益
運送会社の譲渡では、買い手が一括で払えないために、代金を数年にわたる分割払いにすることがあります。これは売り手にとって、長期間の信用リスクを負うことを意味します。事業譲渡では、認可後に事業の実体が買い手に移ってしまうため、代金が払われなくなったときに、車両や許可を取り戻す手段が限られます。契約書で次の点を手当てしておく必要があります。
- 分割の回数・金額・支払日を明確にし、支払方法(口座振込)と振込手数料の負担を決める。
- 期限の利益の喪失事由を書く。1回の支払を怠ったとき、手形・小切手の不渡り、差押え、破産などの申立て、許可の取消し・事業停止命令を受けたとき、荷主の大半が取引を打ち切ったとき、など。
- 期限の利益を失ったときに、残代金の全額に遅延損害金を付けて直ちに支払うことを定める。
- 担保を決める。買い手の代表者や関係者の連帯保証(保証契約は書面でしなければ効力を生じません。民法446条2項)、買い手の資産への担保権の設定、車両を代金完済まで売り手の名義にしておく、など。
- 代金の支払が滞った場合の契約の解除と、事業を元に戻すときの手続(許可・届出・車両の名義)を、あらかじめ書く。
期限の利益とは、期限が来るまで債務を履行しなくてよいという債務者の利益です。民法は、債務者が破産手続開始の決定を受けたときなど法定の事由がある場合にこれを失わせますが(民法137条)、分割払いの契約では、それ以外の事由(1回の不払い、差押え、許可の取消しなど)を契約で追加するのが通常です。
条文例事業譲渡契約 第◯条(譲渡代金及び期限の利益の喪失)の書き方の例(一般的な例)
- 譲渡代金は金◯円(税込)とし、乙は甲に対し、令和◯年◯月から令和◯年◯月まで、毎月末日限り、金◯円ずつ◯回に分割して、甲の指定する口座に振り込む方法で支払う。振込手数料は乙の負担とする。
- 乙が前項の分割金の支払を1回でも怠ったとき、または次の各号の一に該当したときは、乙は当然に期限の利益を失い、残代金の全額を直ちに支払う。(1) 支払の停止または不渡りがあったとき (2) 差押え、仮差押え、仮処分、競売の申立てを受けたとき (3) 破産手続、民事再生手続その他の倒産手続の申立てがあったとき (4) 許可の取消しまたは事業の停止の処分を受けたとき
- 乙が期限の利益を失ったときは、乙は甲に対し、残代金に対して年◯%の割合による遅延損害金を支払う。
- 丙は、乙の本契約上の債務について、甲に対し、乙と連帯して保証する。
売り手側が「代金完済までは名義と許可の主導権を残す」ことは、一般貨物の許可では現実的ではありません。認可を受けて譲り受けた者が許可に基づく権利義務を承継する以上(30条4項)、譲渡の後で売り手が許可を握っておくことはできないためです。担保は、買い手の個人保証、車両への担保、買い手の会社の他の資産への担保、買い手の代表者が持つ株式への質権、といった別の形で設計します。担保の中身は、買い手の財産の状況によって決まるため、ヒヤリングで確かめます。
競業の禁止、旧顧客、商号の扱い
事業を売った会社が同じ地域で同じ運送の仕事を始めてしまうと、買い手にとって、事業を買った意味が失われます。会社法21条1項は、事業を譲渡した会社に、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含む)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内で、事業を譲渡した日から20年間、同一の事業を行わないことを求めています。特約で競業を禁止する場合は、事業を譲渡した日から30年の期間内に限り効力を有します(同条2項)。不正の競争の目的をもって同一の事業を行うことは、これらの規定にかかわらず禁止されます(同条3項)。個人事業者が営業を譲渡する場合も、商法16条が同じ内容を定めています。
この規定は、契約で排除も変更もできるため、運送業の実態に合わせた特約を書くのが普通です。運送業の競業禁止では、次の点が論点になります。
- 禁止する地域:運送業は営業所の所在地だけでなく、荷主の所在地、集荷・配達の地域が事業の範囲になります。市町村単位でよいのか、荷主の拠点を基準にするのかを決める。
- 禁止する期間:長すぎる期間は、職業選択の自由や公序良俗の観点から効力が争われ得るため、事業の性質に見合った期間を設定する。
- 禁止する内容:同一の運送事業を営むことだけでなく、旧荷主へ営業をかけること、旧荷主の仕事を他社名義で受けること、ドライバーを引き抜くことを含めるか。
- 例外:荷主から売り手への新規の依頼を受けてよい場合や、売り手が引き続き行う別の事業(たとえば別の業種)を明記する。
旧顧客の扱いは、運送業ではより具体的に書きます。売り手が自らの名前で荷主に営業していた取引は、荷主との関係が売り手の人間関係に依存していることが多く、事業を引き継いだ後も荷主が売り手に直接依頼を続けてしまうことがあります。契約書では、荷主に対して譲渡の通知を共同で行うこと、売り手は荷主からの運送の依頼を買い手へつなぐこと、一定期間は売り手が荷主との窓口として協力することを決め、その後の直接取引を止めます。委託ドライバーや協力会社の引抜きの扱いは、契約終了・競業の議論と同じ視点で整理できます。
商号の扱いも決めておきます。買い手が売り手の商号や屋号を引き続き使うか、使わないか。使うなら、会社法22条の責任の問題が生じます。使わない場合も、譲受会社が事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をすると、債権者はその譲受会社に弁済を請求できます(同法23条)。
表明保証・クロージングと、過去の問題の切り分け
運送業の譲渡では、買い手が引き継ぐものの中に、過去の運行の結果が含まれています。事故、荷主への賠償、未払いの報酬や経費、監査での指摘、行政処分歴。これらは譲渡の前に原因が生じ、譲渡の後に表面化することがあります。契約書では、売り手に次のような表明保証をさせるのが基本です。
| 表明する内容 | 確認の資料・方法 |
|---|---|
| 許可・届出が有効で、取消しや停止の処分を受けていないこと | 許可証、直近の監査の結果通知、処分歴の有無 |
| 事業用自動車、営業所、車庫が許可の事業計画と一致していること | 事業計画の写し、車検証、賃貸借契約書 |
| 荷主との契約に、譲渡で解除される条項や重大な違反がないこと | 荷主ごとの契約書、取引の履歴 |
| 未払いの報酬、立替金、リース料、保険料がないこと | 委託ドライバー・協力会社・リース会社・保険会社への支払状況 |
| 事故や荷主からの請求・クレームが係属していないこと | 事故報告、保険の請求状況、荷主からの通知 |
| 譲渡対象の車両が、他人の権利(担保・所有権留保・差押え)に拘束されていないこと | 車検証、ローン・リースの残高証明、登記・登録の確認 |
表明が事実と異なっていた場合の補償の範囲と期間を、契約書の別の条で決めます。
表明保証に違反したときの補償も、運送業の実情に合わせます。たとえば、譲渡の前に起きた荷物事故の賠償は売り手の負担とし、買い手が引き継いだ荷主から請求された場合の求償の手順(通知、協議、支払)を決める。譲渡の日までの運行の責任と、それ以後の責任を、運行日・車両の引渡日・名義変更日のどれで区切るかを書いておく。保険の契約者や被保険者の切替えが遅れて空白期間が生じないよう、保険会社への通知の期限を定める。
クロージングの当日は、代金の支払、車両の引渡し、鍵や運行記録の引継ぎ、賃貸借の切替えが重なります。事業譲渡の契約書では、代金の支払と資産・鍵の引渡し、車両の名義変更、賃貸借の切替えを同時に行い、着金の確認をもって引渡しと所有権の移転の効力が生じる、という書き方があります。運送業でも同じ考え方が使えますが、認可が前提になるため、認可の日とクロージングの日を揃えるのか、クロージングを認可の日の翌営業日にするのかを、あらかじめ決めておきます。
ヒヤリングで確かめること、起きがちなこと
ヒヤリングで確かめること 運送会社の譲渡契約を作る前に
売るのは事業ですか、株式(持分)ですか。会社の形(株式会社、合同会社、個人事業)は何ですか。
手続も契約書の骨格も、ここで決まる。「法人格を譲る」という言葉は、対象を特定するために言い換えて確認する。
一般貨物ですか、軽貨物ですか。両方を営んでいますか。
一般貨物は認可、軽貨物は届出と、手続の種類が違う。
譲渡の対象に含める車両はどれですか。リースや所有権留保が付いているものはありますか。
車両ごとに名義・承諾・完済の要否を確認する。
営業所・車庫は賃貸ですか。貸主の承諾は必要ですか。
許可の事業計画と賃貸借の整合、切替えの時期を決める。
荷主との契約は、譲渡に承諾が必要な条項がありますか。専属・優先の約束はありますか。
荷主ごとの承諾の手順と、承諾が得られなかったときの扱いを決める。
代金は一括ですか、分割ですか。分割なら回数と、担保になるものはありますか。
期限の利益の喪失と担保の設計の前提になる。
売り手は譲渡後も同じ地域で別の運送の仕事を続けますか。
競業禁止の範囲と例外を決める。
過去の事故、未払い、行政処分、監査の指摘はありますか。
表明保証と、譲渡前の原因による損害の負担を決める。
よくあるご質問
運送会社を「ごと」売るとき、事業譲渡と株式(持分)譲渡のどちらがよいですか?
事業を譲渡する場合は、引き継ぐ資産・契約・債務を選べますが、一般貨物では国土交通大臣の認可が要ります(貨物自動車運送事業法30条1項)。株式や持分を譲渡する場合は、会社の許可が残るため認可は問題になりませんが、会社の債務や過去の責任もそのまま残ります。許可の維持、債務の切り分け、買い手の資金計画を並べて選びます。
一般貨物の許可は、事業を譲渡すれば自動的に買い手に付いてきますか?
付いてきません。一般貨物自動車運送事業の譲渡し及び譲受けは、国土交通大臣の認可を受けなければ効力を生じず、認可を受けて譲り受けた者が、許可に基づく権利義務を承継します(貨物自動車運送事業法30条1項・4項)。認可には許可の基準(同法6条)と欠格事由(同法5条)が準用されるため、買い手もこれらを満たす必要があります。
認可が下りる前に、車両を引き渡して買い手が運行を始めてよいですか?
認可の前は譲渡し・譲受けの効力が生じていないため、買い手は自らの名義で事業を営む立場にありません。許可のない状態で運送を始めると、許可を受けずに事業を経営していると見られるおそれがあります。契約書では、認可を停止条件とし、認可の日までは売り手の名義で運行を続け、認可の日から買い手に切り替える、と書くのが基本です。
軽貨物の事業を譲渡するときは、どんな手続になりますか?
貨物軽自動車運送事業は届出の事業です。事業の全部を譲渡したときは、譲渡人が遅滞なくその旨を国土交通大臣に届け出ます(貨物自動車運送事業法36条3項)。譲り受ける側は、自ら貨物軽自動車運送事業を経営しようとする者として、営業所の名称・位置や事業用自動車の概要などを届け出ます(同条1項)。契約書では、だれがいつ届出をするかと、車両の名義を整合させることが論点になります。
譲渡代金を長期の分割払いにするとき、契約書に何を書きますか?
分割の回数・金額・支払日のほか、期限の利益を失う事由(不払い、差押え、倒産手続の申立て、許可の取消しなど)、遅延損害金、担保(連帯保証は書面が必要です。民法446条2項)を書きます。認可を受けて事業が買い手に移った後は、売り手が許可を握っておくことはできないため、担保の設計が重要になります。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。届出・許可・登録の運用は、所管の行政機関によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認したものに限って掲載しています。参考: e-Gov法令検索 / 物流・自動車局(国土交通省) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 裁判所ウェブサイト