軽貨物の事故報告・事故記録と指導監督の記録

事故が起きたとき、軽貨物の事業者には、委託者への連絡とは別に、法令で定められた事故の記録と国への報告があります。契約書の報告条項は、この二つを分けて書くところから始まります。

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このページの要点

  • 事故の記録(物損事故を含む)と運転者への指導及び監督の記録は3年間、日報は1年間の保存で、期間が違う。
  • 国土交通大臣への事故報告は事故があった日から30日以内。委託者への連絡とは別の、事業者自身の義務。
  • 契約終了後も記録の保存義務は残るため、全面削除の条やドライブレコーダーの使用禁止の条には例外を置く。
  • 事故の回数で免責額を変える条は、数え方と報告義務の扱いを分けて書き、報告が遅れる動機を作らない。

結論:契約書の「報告」と、法令が求める「記録・報告」は別に書く

軽貨物の委託契約書には、事故が起きたら委託者に報告する、という条が置かれているのが普通です。ところが2025年4月から、貨物軽自動車運送事業者(国土交通大臣に届出をして、軽自動車や二輪で有償の貨物運送を営む人や会社)には、委託者への連絡とは別に、法令で定められた「事故の記録」の作成と3年間の保存、重大な事故の国土交通大臣への報告、運転者への「指導及び監督」とその記録の保存が求められています。契約書が荷物の破損や遅配の連絡しか想定していないと、事故の日に作るべき書類と契約上の報告が噛み合いません。

このページでは、国土交通省のリーフレットと実施マニュアル(貨物軽自動車運送事業者編)に基づいて義務を整理し、契約書の条項の直し方を、実務でよく見られる書き方との対比で説明します。結論は次の四点です。

  • 事故の記録(物損事故を含みます)は3年間、運転者への指導及び監督の記録も3年間、業務の記録(日報)は1年間の保存です。保存期間が違うので、契約書の記録保管の条を一律の期間にしないようにします。
  • 国土交通大臣への事故報告は、委託者への連絡とは別の、受託者自身の義務です。
  • 契約が終わっても記録の保存義務は残ります。「契約終了時にデータを削除する」条や、ドライブレコーダーの映像を貸主の指示なしに使えない条には、法令上の保存・活用のための例外を置きます。
  • 事故の回数で免責額を変える条は、報告を遅らせる動機を生みやすい書き方です。回数の数え方と、報告義務の違反の扱いを分けて書きます。

まず、義務の全体像を一覧にします。

事故と運転者の指導に関する主な義務(貨物軽自動車運送事業者)
義務内容期限・保存
事故の記録事故(物損事故を含む)が発生したとき、運転者の氏名・車両番号・発生日時と場所・当事者の氏名・概要・原因・再発防止対策などを記録する書面又は電磁的方法で3年間保存
国土交通大臣への事故報告死傷者を生じた事故など重大な事故について、所定の様式で運輸支局等を通じて報告する事故があった日から30日以内。2人以上の死者を生じた事故などは、24時間以内にできるだけ速やかに速報
運転者への指導及び監督運行の安全に必要な運転の技術と法令の遵守事項を、運転者に毎年指導・監督する日時・場所、内容、実施した者と受けた者を記録し3年間保存
特別な指導・適性診断・台帳初任運転者・65歳以上の運転者・事故を引き起こした運転者に、特別な指導をして適性診断を受けさせ、運転者等台帳に記載する台帳を営業所に備え置く
業務の記録(日報)運転者ごとに、運行の日時・地点・距離・休憩などを記録する。事故などの異常があれば概要と要因も書く1年間保存
点呼の記録乗務の前後に酒気帯びの有無などを確認し、点呼記録簿に記録する1年間保存

出典は国土交通省のリーフレットと実施マニュアル(貨物軽自動車運送事業者編)です。記録・保存は、パソコンやスマートフォンで行ってよいとされています。

2025年4月から誰に何が適用されたのか(一人で事業を行う場合を含む)

貨物軽自動車運送事業者による重大事故が増えていることを受けて、令和6年(2024年)に法令が改正され、令和7年(2025年)4月から安全対策が強化されました。同省のリーフレットは、一人で事業を行う場合も自ら安全対策を実施する必要があるとしています。黒ナンバーの車に一人で乗る受託者は、運転者であると同時に、事故の記録を作る事業者であり、指導及び監督をする側と受ける側を兼ねる人でもあります。

経過措置が示されている項目

同じリーフレットで、猶予の期限が示されているのは次の項目です。

  • 貨物軽自動車安全管理者の選任・講習:令和7年3月末までに経営届出をした事業者は令和9年3月まで。令和7年4月以降に届出をした事業者は速やかに。
  • 初任運転者等への特別な指導と適性診断:令和7年3月末までに経営届出をした事業者は令和10年3月まで。令和7年4月以降に届出をした事業者には猶予期間がありません。

事故の記録や事故報告については、同リーフレットに猶予の期限は示されていません。これから軽貨物で開業する人や、新しく委託先を選ぶ人は、届出の日が令和7年4月以降かどうかで、求められる準備の速さが変わる点にも注意が必要です。安全管理者の選任と届出そのものは開業と届出のページで扱っています。

誰の義務で、どの車が対象か

これらは、届出をして貨物軽自動車運送事業を営む者(貨物軽自動車運送事業者)の義務です。受託者が自分で届出をしている個人や会社なら、受託者自身の義務になります。委託者のほうが元請として自社の届出や許可を持っている場合は、委託者にも委託者自身の記録・報告の義務があり得ますので、委託者は受託者の記録の提出を受けたいと考え、受託者は求められた範囲で応じる、という関係が生まれます。契約書に「事故の記録の写しを提出する」「点呼・事故記録その他の安全管理に関して法令上必要な記録・報告に協力する」という趣旨の条を置くのは、このためです(再委託と改正貨物自動車運送事業法のページも参照してください)。

使う車の区分にも注意が必要です。運転者への特別な指導を定める国土交通省告示は、貨物軽自動車運送事業者については四輪以上の軽自動車を使う事業者に限っています。リーフレットにも、一部の項目に「バイク便(三輪・二輪を用いる事業)を除く」という注記があります。三輪・二輪で運ぶ場合は、項目ごとに対象かを確かめます。

事故の記録と国への報告:項目・期限・保存期間

事故の記録に書く8項目

事故の記録は、事故(物損事故を含みます)が発生したときに作成し、書面又は電磁的方法で3年間保存します。実施マニュアルが示している記録項目は次の8つです。

  1. 運転者の氏名
  2. 事業用自動車の車両番号
  3. 事故の発生日時
  4. 事故の発生場所
  5. 事故の当事者(運転者を除きます)の氏名
  6. 事故の概要(損害の程度を含みます)
  7. 事故の原因
  8. 事故の再発防止対策

日報(業務の記録)にも、事故などの異常が起きたときはその概要と要因を書くことになっています。日報は1年、事故の記録は3年の保存なので、同じ事故が別々の保存期間で二つの記録に残ります。

契約書にある事故報告と見比べると、役割の違いが分かります。

契約上の事故報告と、法令上の事故の記録の違い

契約書の事故報告法令上の事故の記録

目的

契約書の事故報告委託者が荷主への対応、賠償、配車の調整をするため

法令上の事故の記録事業者が事故の原因を分析し、再発の防止につなげるため

対象

契約書の事故報告荷物の破損・紛失・誤配、クレーム、交通違反、疾病、車両故障など、契約が列挙したもの

法令上の事故の記録事故(物損事故を含む)。荷物だけの破損が含まれるかは、定義の確認が必要

宛先

契約書の事故報告委託者

法令上の事故の記録提出先はなく、事業者が作成して保存する

期限

契約書の事故報告契約で決める(24時間以内、3日以内など)

法令上の事故の記録作成の期限は、公表資料には示されていない

保存

契約書の事故報告定めがないか、配達記録の保管期間に合わせる例が多い

法令上の事故の記録3年間

速報では原因と再発防止対策の欄が空欄になりがちですが、法令上の記録には欠かせません。

委託者から渡された事故報告書の書式に、当事者の氏名、原因、再発防止対策の欄がないことがあります。その書式だけを埋めても、法令上の事故の記録としては項目が足りません。書式を渡す側は8項目が入る形にし、受け取る側は足りない項目を追記して一つの記録にします。荷物だけが壊れた場合と車両が絡む事故を同じ欄に混ぜると、どれが法令上の記録の対象かが分からなくなるため、欄も分けておきます。

国土交通大臣への事故報告:30日と24時間

死傷者を生じた事故など重大な事故が起きたときは、所定の様式により、運輸支局等を通じて国土交通大臣に報告します。通常の報告は事故があった日から30日以内です。これとは別に、2人以上の死者を生じた事故など重大な事故については、24時間以内にできるだけ速やかに、運輸支局等に電話などで速報します。報告の対象となる主な事故には、死者又は重傷者を生じたもの、転覆・転落・火災を起こしたもの、酒気帯び運転・無免許運転・麻薬等運転を伴うもの、救護義務違反があったものなどがあります。定義は国土交通省が公開しているので、契約書には「法令に定める報告の対象となる事故」と書くのが無難です。

事故が起きた日から、記録の保存まで

  1. 事故の発生(当日)負傷者の救護、警察への通報、二次事故の防止など、法令が定める措置をとります。委託者への連絡や書類は、その後です。
  2. 委託者への一報(当日〜24時間以内)契約で決めた期限内に、日時・場所・概要・負傷者の有無を連絡します。
  3. 国への速報(該当する場合は24時間以内にできるだけ速やかに)2人以上の死者を生じた事故など、速報の対象に当たる場合は、運輸支局等に電話などで事故の概要を伝えます。
  4. 国への報告書(事故があった日から30日以内)所定の様式に事故の概要や再発防止策などを記入し、運輸支局等を通じて提出します。公表時点では郵送や対面での提出とされ、電子的な届出は準備中でした。現在の方法は国土交通省の案内で確かめます。
  5. 事故の記録の保存(3年間)8項目を記録し、書面又は電磁的方法で3年間残します。再発防止対策は、運転者への指導及び監督の内容にもつなげます。

契約書の速報は、起算の書き方が要点です(後の「よくある失敗と直し方」で例を挙げます)。委託者への一報と、国への報告・記録は別の義務なので、前者を果たしても後者を果たしたことにはならない、と条文で分けておきます。国への報告をするのは、届出をした事業者本人です。委託者は、報告書の内容を指示するのではなく、控えの提出を受ける形が適切です。事故の相手方との示談や賠償の扱いは事故・保険のページで扱っています。

保存期間の計算例:事故の記録は3年、日報は1年、契約はその前に終わる

保存期間の違いは、契約の終了と重なると分かりにくくなります。次の例は、記録ごとの保存期間を並べて計算したものです(日付は説明のための仮定です)。

保存期間の計算例(仮定:契約は令和9年3月31日に終了)
記録作成した日保存期間残しておく日の目安
事故の記録令和8年6月20日(事故は6月10日)3年間令和11年6月20日まで。事故の日から数えれば令和11年6月10日だが、起算日は公表資料に明示がないため、遅いほうに合わせる
業務の記録(事故当日の日報)令和8年6月10日1年間令和9年6月10日まで。ただし事故の原因の裏付けになるため、事故の記録と同じ令和11年6月20日まで残す運用が安全

日報の延長保存は、法令上の義務ではなく運用の例です。

この例では、契約が令和9年3月31日に終わっても、事故の記録は令和11年6月まで残ります。指導及び監督の記録も、実施から3年は残ります。保存の条や削除の条が契約終了と同時に効力を失う書き方だと、法令上必要な期間より前に記録が消えるおそれがあります。

運転者への指導及び監督と、事故が起きると増える義務

指導及び監督:毎年、三つのことを記録して3年保存する

運転者に対する指導及び監督は、貨物自動車運送事業輸送安全規則10条1項に基づき、毎年実施します。実施した日時と場所、内容、実施した者と受けた者を記録し、営業所で3年間保存します(指針を定めた国土交通省告示による)。指針が挙げる指導の内容は、運転者の心構え、遵守すべき基本的事項、車両の構造上の特性(死角、内輪差、制動距離など)、積載方法、過積載の危険性、運行経路と交通の状況、危険の予測と回避、運転適性、眠気や過信といった生理的・心理的要因、健康管理など、十二の項目にわたります。

実施マニュアルは、運転者ごとに重点項目を決め、年間・月間・週間の計画で指針の内容を網羅することを勧め、点呼のときに行った指導及び監督も記録しておくよう示しています。一人で事業を行う受託者は、自分で指導内容を理解して実行し、記録を残します。民間の研修機関など外部の機関の活用も有効とされています。

契約書では、誰が指導及び監督を行い、どう記録するかが曖昧になりがちです。型で整理します。

指導及び監督の実施の型と、契約書で気をつけること
型実施する者記録の作り方契約書で気をつけること
受託者が自ら実施する受託者(個人なら本人が自分に対して)受託者が日時・場所・内容・実施者・受けた者を記録する実施は受託者の義務で、委託者は結果の報告を求めるにとどめる
委託者の資料や研修を、受託者が選んで利用する委託者が資料や機会を提供し、受託者が利用を判断する委託者が日時・場所・内容・実施者を書いた書面を渡し、受託者が自分の記録に添える利用は受託者の判断とし、受講しなくても受託が妨げられない形にする
委託者が受講を義務として指定する委託者委託者の記録と、受託者の記録の両方が必要になる指揮監督が強く見え、労働者性の判断で不利な事情になり得る(委託ドライバーと労働者性のページで研修の扱いを詳しく説明しています)

事故が起きると増える義務:特別な指導、適性診断、運転者等台帳

四輪以上の軽自動車を使う事業者は、一般的な指導及び監督に加えて、次の運転者に特別な指導をし、国土交通大臣の認定を受けた適性診断を受けさせます。実施した状況は、運転者の氏名などとあわせて「貨物軽自動車運転者等台帳」に記載し、営業所に備え置きます。

  • 初任運転者(過去に一度も特別な指導・適性診断を受けていない人):運転の技能と法令の知識を確認する指導で、実施マニュアルでは法令等の遵守事項と運転に関する事項で合計5時間以上(安全運転の実技は可能な限り)。
  • 65歳以上の運転者:適性診断の結果を踏まえ、加齢による身体機能の変化に応じた運転方法を、運転者自身が考える形で指導します。
  • 事故を引き起こした運転者:死者又は重傷者を生じた事故を引き起こした人と、軽傷者を生じた事故を引き起こし、かつその事故の前3年間にも事故を引き起こしたことがある人が対象です(重傷・軽傷の区分は自動車損害賠償保障法施行令5条の傷害の区分によります)。軽貨物の事業者では、再発防止のための指導が合計5時間以上とされています。

初任運転者については、乗務前3年間に他の事業者で運転者として乗務した経歴がある場合などの扱いも、実施マニュアルに示されています。誰が対象かは、運転者ごとの経歴で確かめます。

契約書への影響は二つあります。一つは、事故を起こした運転者に特別な指導と適性診断が必要になるため、稼働できない日や受診・受講の費用が生じることです。もう一つは、委託者が独自に「業務停止・再教育・ドライバー交代」を定めている場合、その再教育が法令上の特別な指導の内容・時間・記録の要件を満たすかは別の問題だということです。特別な指導として数えたいなら、内容と時間と記録を法令の要件に合わせて設計します。

事故の回数に応じて免責額を変える定めを置く例もあります。初回は一定額を免責し、2回目以降は免責額を変え、故意・重過失は全額、という段階です。負担の公平を図る工夫ですが、報告するほど次回の負担が重くなる設計は、報告を遅らせたり、軽い事故を連絡しなかったりする動機にもなります。事故の記録は法令上の義務なので、回数の数え方と、記録・報告をしたことの扱いは別の条文で定めます。

よくある失敗と直し方:報告・映像・保存・削除の条

実務で見られる軽貨物の業務委託契約書や車両貸与の契約書には、事故の報告、映像の扱い、記録の保管、契約終了時のデータ削除について、法令上の記録・報告と噛み合わない書き方が見られます。典型的な書き方と、その直し方を対比します。

書き方の例(一般的な例) 報告と記録の条

報告先と指示の範囲

出発点「重大な事故が発生した場合、直ちに甲に報告し、その指示に従って誠実に対応する」とだけ書く。
整えた書き方「乙は、法令に基づく事故の記録の作成・保存と国土交通大臣への報告を自らの責任で行う。甲には事故の概要を連絡し、乙が作成した記録の写しを求めに応じて提出する。甲の指示は荷物の取扱い・配送の継続・荷主への対応に関するものとし、法令に基づく乙の判断を妨げない」と書く。

委託者への連絡と、国への報告・記録を分けます。「その指示に従う」と書いたままだと、国に出す報告の内容まで委託者の指示に従うように読めます。

速報の起算

出発点「事象発生日から24時間以内に口頭又はメール等で速報する」と書く。
整えた書き方「事故を知った時から、できるだけ速やかに、遅くとも24時間以内に」と書く。

発生日で数えると、期限の終わりが読み手によってずれます。時刻で起算します。法令上の速報(24時間以内にできるだけ速やかに)と書き方をそろえる意味もあります。

指導及び監督の条

出発点「乙は所属ドライバーに、甲の定める業務基準・安全運転方針に従わせ、適切に指導・監督する」と書く。
整えた書き方「乙は、法令が定める運転者への指導及び監督を毎年自らの責任で実施し、日時・場所・内容・実施者・受けた者を記録して3年間保存する。甲は基準や資料を情報として提供できるが、実施の方法と内容は乙が決める」と書く。

法令上の指導及び監督は事業者自身の義務です。委託者の基準に従わせる、とだけ書くと、記録の主体が曖昧になるうえ、委託者が運転者に直接指揮しているようにも見えます。

書き方の例(一般的な例) 免責額・映像・保存・削除の条

事故の回数と免責額

出発点「初回は5万円を免責とし、2回目以降は10万円を免責とする」とだけ書き、何を1回と数えるかを書かない。
整えた書き方「回数は、乙の責めに帰すべき事由により発生した事故に限って数える。事故の連絡や国への報告をしたことを理由に、乙に不利益な取扱いをしない。連絡や報告を怠ったことは、別の義務違反として扱う」と書く。

数え方が曖昧だと、もらい事故や軽微な接触まで数えられます。報告が不利益になる設計は、報告の遅れの原因になります。

ドライブレコーダーとGPSのデータ

出発点車両貸与の契約で、「運行履歴・ドライブレコーダーの映像・GPSのデータは秘密情報とし、貸主の書面による指示がない限り、借主は使用・保存・開示・複製しない」と書く。
整えた書き方「事故の記録の作成、指導及び監督、保険会社・警察その他の公的機関への提出、法令に基づく報告のために必要な範囲では、借主が使用・保存・開示できる。貸主の装置のデータは、借主の求めに応じて必要な範囲で提供する」と例外を置く。

映像は事故の原因を確かめる有力な資料です。使えないと原因欄を書けず、保険の請求や警察への提出もできません(車両リース・貸与のページで位置情報の扱いも説明しています)。

記録の保管期間

出発点「配送の記録・写真は業務実施日から1年間保管する」と一律に書く。
整えた書き方「配送の記録は1年間。ただし、事故に関係する日報・配送記録・写真・映像は、事故の記録と同じ期間保管する。この期間は契約終了後も変わらない」と書く。

日報は1年、事故の記録は3年です。事故当日の配送記録を1年で消すと、3年残すはずの事故の記録の裏付けがなくなります。

契約終了時のデータ削除

出発点「契約の終了時、乙は保有する個人情報を復元不能な方法で削除又は返却する」と書く。
整えた書き方「ただし、法令により保存が義務づけられた記録(事故の記録、指導及び監督の記録、業務の記録)に含まれる個人情報は、保存期間が満了するまで乙が安全に管理し、満了後に削除する」と書く。

事故の記録には当事者の氏名が含まれ、全面削除と3年の保存義務はぶつかります。委託者が預けた配送先の情報は削除・返却、事故の当事者の情報は保存、と分けます。

事故の記録に含まれる当事者の氏名や連絡先は個人情報です。事故の記録を作って保存する受託者は、個人情報を取り扱う者として、利用目的をできる限り特定し(個人情報保護法17条1項)、漏えいなどを防ぐ安全管理措置を講じることが求められます(同法23条)。記録の写しを委託者や保険会社に渡す場面では、個人データの第三者提供の制限(同法27条1項)との関係で、本人の同意があるか、法令に基づく場合や人の生命・身体・財産の保護のために必要で同意を得ることが困難な場合などの例外に当たるかを整理しておきます。渡す範囲は、事故の対応に必要な項目に絞るのが安全です。

元請の契約書全体の読み方は軽貨物の業務委託契約書のページ、欠車の費用は代走費・違約金のページで扱っています。

ヒヤリングで確認すること:条項を書く前に確かめる七つの問い

ヒヤリングで確かめること 事故の記録・報告と指導監督の条を作る前に

  1. 受託者は自分で貨物軽自動車運送事業の届出をしていますか。使う車は四輪ですか、三輪・二輪ですか。

    義務の主体と対象の項目が決まります。届出が令和7年4月の前か後かで、経過措置の有無も変わります。

  2. 事故の記録の書式は誰が用意し、8項目のすべてが入っていますか。

    足りない項目を誰が追記するかを決めます。

  3. 国土交通大臣への報告が必要な事故が起きたとき、誰が、どの順番で動きますか。

    国への報告の名義人は事業者本人です。委託者への一報、国への速報、30日以内の報告書の順と担当を決めておきます。

  4. 免責額や違約金に使う「事故の回数」は、何を数えますか。

    もらい事故や軽微な接触を数えるのか、報告の有無で扱いを変えるのかで、報告の動機が変わります。

  5. ドライブレコーダーやGPSのデータは誰のもので、事故の記録・指導・保険の請求にどこまで使えますか。

    車両を借りている場合に、映像を使えないという条があると、事故の原因欄を書けません。

  6. 指導及び監督は、いつ、誰が、どの方法で行い、記録はどこに置きますか。委託者の研修を使いますか。

    委託者の研修を使うなら、日時・場所・内容・実施者を書いた書面が受託者に渡る仕組みにします。

  7. 契約が終わった後、記録の保存と提出協力を、誰がいつまで続けますか。

    事故の記録は契約終了後も3年残ります。削除条項や秘密保持条項との関係を、あらかじめ整理しておきます。

条文の例:事故の記録・報告、記録の保存、指導及び監督

ここまでの整理を、三つの条文の形にまとめます。論点を説明するために新しく書き起こした例で、番号、当事者の呼び方、期間、提出の範囲は事情に合わせて調整します。

条文例業務委託契約 第◯条(事故の記録及び報告)

  1. 乙は、本業務に使用する自動車について事故(物損事故を含みます。以下同じです。)が発生したときは、負傷者の救護、警察への通報その他法令が定める措置を講じたうえで、事故を知った時からできるだけ速やかに、遅くとも24時間以内に、甲に対し、事故の日時、場所、概要及び負傷者の有無を連絡します。
  2. 乙は、前項の連絡とは別に、法令に基づき、事故の記録の作成及び保存並びに国土交通大臣への報告を、自らの責任で行います。本契約のいかなる定めも、これらの法令上の義務を免れさせるものではなく、乙が国に報告する内容を甲が指示することを意味しません。
  3. 乙は、事故の記録に、運転者の氏名、車両番号、事故の発生日時及び場所、事故の当事者(運転者を除きます。)の氏名、事故の概要(損害の程度を含みます。)、事故の原因並びに事故の再発防止対策を記載します。
  4. 乙は、甲の求めがあったときは、前項の記録のうち、荷主への対応、保険の請求その他の事故の処理に必要な部分の写しを甲に提出します。事故の当事者の氏名及び連絡先は、提出の必要がある場合に、必要な範囲に限って提出します。
  5. 事故の回数は、乙の責めに帰すべき事由により発生した事故に限って数えます。乙が本条の連絡又は国への報告を行ったことを理由として、乙に不利益な取扱いをしません。乙が本条の連絡又は報告を怠ったときは、別に本契約の違反として扱います。

第5項は、免責額の段階を置く契約と組み合わせる場合の書き方の例です。免責額の段階を置かない契約では不要です。

条文例業務委託契約 第◯条(記録の保存及び契約終了後の協力)

  1. 乙は、事故の記録及び運転者に対する指導及び監督の記録を3年間、業務の記録を1年間、それぞれ保存します。ただし、事故の日の業務の記録、配送の記録、写真及びドライブレコーダーの映像のうち、事故の原因の確認に必要なものは、当該事故の記録と同じ期間保存します。
  2. 前項の保存の期間は、本契約が終了した後も変わりません。乙は、その期間中、甲の求めに応じ、法令の許す範囲で記録の写しの提出に協力します。
  3. 本契約の終了時に甲が乙に預けた配送先の情報その他の個人情報を削除し又は返却する義務は、第1項の記録に含まれる個人情報には及びません。乙は、第1項の期間中、これを安全に管理し、期間の満了後に削除します。
  4. 乙は、ドライブレコーダー及びGPSのデータを、事故の記録の作成、運転者への指導及び監督、保険会社又は警察その他の公的機関への提出並びに法令に基づく報告のために、使用し、保存し、必要な範囲で開示することができます。甲が管理する車両に搭載された装置のデータについては、乙の求めがあったときは、甲は、同じ目的に必要な範囲で速やかに提供します。

条文例業務委託契約 第◯条(運転者に対する指導及び監督)

  1. 乙は、法令が定める運転者に対する指導及び監督を、毎年、自らの責任で実施し、その日時、場所及び内容並びに実施した者及び受けた者を記録します。
  2. 甲は、安全運転に関する資料又は研修の機会を乙に提供することができます。乙は、これを利用するかどうか、及び前項の指導及び監督の一部として扱うかどうかを、自ら判断します。乙が甲の研修を前項の記録に用いるときは、甲は、その日時、場所、内容及び実施者を記した書面を交付します。
  3. 乙は、法令が定める特別な指導及び適性診断の対象となる運転者について、その実施の状況を運転者等台帳に記載し、営業所に備え置きます。

まとめ:事故の日に困らないために

事故が起きた日に必要なのは、委託者への連絡、法令上の記録と報告、保険会社や警察への対応で、それぞれ宛先も期限も保存期間も違います。契約書が「直ちに甲に報告し、指示に従う」という一本の条だけだと、記録も国への報告も契約上の位置づけを持たないまま、現場の判断に任されます。

よくあるご質問

軽貨物の事故の記録は、何年保存しますか?

事故(物損事故を含みます)が発生したときに、運転者の氏名、車両番号、発生日時と場所、当事者の氏名、概要、原因、再発防止対策などを記録し、3年間保存します。日報(業務の記録)は1年、運転者への指導及び監督の記録は3年の保存です。契約が終了しても、保存期間は変わりません。

事故を委託者に報告すれば、国への報告は不要ですか?

別の義務です。死傷者を生じた事故など重大な事故は、所定の様式で運輸支局等を通じて国土交通大臣に、事故があった日から30日以内に報告します。2人以上の死者を生じた事故などは、24時間以内にできるだけ速やかに速報します。委託者への連絡は契約上の義務なので、契約書では両者を分けて書きます。

一人で事業をしている場合も、運転者への指導及び監督は必要ですか?

必要です。国土交通省のリーフレットは、一人で事業を行っている場合でも自ら安全対策を実施する必要があるとしています。毎年実施し、日時と場所、内容、実施した者と受けた者を記録して3年間保存します。一人の場合は、自分で指導内容を理解して実行します。

契約が終わったら、事故の記録は捨ててよいですか?

法令で定められた保存期間(事故の記録は3年)が満了するまでは、契約が終わっても保存します。契約書に「終了時にデータを削除する」条がある場合は、法令で保存が必要な記録を除く旨の例外を置いておきます。

事故の回数で免責額を変える条は、どう書けばよいですか?

何を1回と数えるかを書きます。受託者の責めに帰すべき事由による事故に限って数えるなどです。あわせて、事故の連絡や国への報告をしたことを理由に不利益に扱わないこと、連絡や報告を怠ったときは別の義務違反として扱うことを書くと、報告が遅れる動機を作りにくくなります。

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本ページは一般的な情報提供です。届出・許可・登録の運用は、所管の行政機関によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認したものに限って掲載しています。参考: e-Gov法令検索 / 物流・自動車局(国土交通省) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会) / 裁判所ウェブサイト

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